“やり抜く力”とは?保育にも活かせる子どもの非認知能力
近年注目されている「やり抜く力(GRIT)」は、心理学者アンジェラ・ダックワースが提唱した概念で、「情熱」と「粘り強さ」をもって長期的な目標に向かって努力し続ける力を指します。
彼女の著書『GRIT やり抜く力』では、成果を出す人々は才能だけでなく、意図的な練習を重ねる中で努力が報われることを経験し、やがて努力そのものを楽しむようになる、と述べられています。
これは、まさに私が保育現場で子どもたちに経験してほしいと思っていたことと重なります。以下では、5歳児クラスを担任していたときのエピソードを交えながら、「やり抜く力」の芽生えについてご紹介します。
努力を楽しんだ5歳児クラスの実例
難しい技に挑戦:後転の練習から生まれた自信
ある年、私は5歳児クラスの担任をしており、運動会の演技の中に「後転」を取り入れました。最初にできたのは運動神経の良い2人だけ。多くの子は回ることすら難しく、当初は補助ありで進める予定でした。
しかし、予想に反して子どもたちのほうから「練習したい!」という声が毎日のように上がり、自主的な練習が続いたのです。
私が行ったのは、
- 手や足の動かし方など、動作の手順を明確に示すこと
- うまくできた部分・あと一歩な部分を丁寧にフィードバックすること
- そして、私自身が笑顔で楽しく関わること
でした。
練習の初期には、補助付きで回ったあと「楽しかった!」と目を輝かせる子もいました。ある子は、何度も繰り返すうちに「今までで一番形がきれいだった!」と私に褒められた瞬間、何かをつかんだようにハッとした表情を見せ、それを機に一気に上達しました。
本番の前日までできなかった子が、降園直前まで「動画に撮ってくれない?」「今、できてた?」と自らフィードバックを求め、ついに当日成功させたときには、私も保護者も思わず涙が出ました。
合奏や縄跳びに広がった挑戦心
運動会後も、子どもたちの「挑戦したい!」という姿勢は続きました。
発表会では、普段はドレミファソを指で押さえる程度のピアニカ練習しかしていなかったにも関わらず、ある童謡をクラス全員で合奏することに挑戦。いわゆる小学校低学年レベルの楽曲でしたが、子どもたちは「やってみたい!」と前向きで、練習を重ねて見事に演奏しきりました。
さらに年末には、2人縄跳びがクラスで流行。最初は10回を目標にしていた子どもたちが、自ら20回→50回→100回とスモールステップで目標を設定しながら挑戦を重ね、ついにはペアを変えながら100回以上跳ぶまでに成長しました。
個人では、後ろ跳びや交差跳び、あや跳びなどに挑戦する子もおり、クラス全体が挑戦心にあふれる雰囲気でした。
子どもが努力を楽しむ保育の関わりとは
この経験を通して感じたのは、
- 子どもが「努力=しんどい」ではなく「努力=できるようになるって楽しい!」と捉えるには、適切な環境と関わりが必要であること
- そのために、
- 方法を明確に伝える(意図的な練習の土台)
- 小さな成功体験を積ませる
- 仲間と喜びを共有できる雰囲気をつくる
- 子ども達自身で決めた目標を否定せず、とことん協力する
- 保育者自身が楽しむ姿を見せる
といった保育者の工夫が大きなカギとなる、ということでした。
おわりに|挑戦する心を育む毎日の保育
「やり抜く力」は、一朝一夕で育つものではありません。しかし、幼児期に「できるようになった嬉しさ」や「友達と一緒にがんばる楽しさ」を繰り返し味わうことは、まさにその土台になると思います。
「がんばったらできた!」「次はこれに挑戦してみたい!」という気持ちは、未来の自分を信じる力に繋がっていくはずです。
日々の保育の中で、子どもたちのそんな姿を応援し続けたいと改めて感じた出来事でした。
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